目指せ!電子計測のエキスパート 第2回 波形測定 私はプローブから選ぶ!

第2回 波形測定 私はプローブから選ぶ! ~正確な波形計測の要は適切なプローブの選択から~

「私はプローブから選ぶ」

これは、私が以前お会いしたエンジニアの方から言われた言葉です。
この方は、某半導体メーカーから自動車電装品サプライヤーに移られた経歴をお持ちで、その方いわく、「オシロスコープは本体から選ぶのではなく、測定に最適なプローブから選ぶ。オシロスコープはそのプローブが使えればどのメーカーでも良い」とのことでした。

まさに言い得て妙だと思います。

その方の測定対象はDDRメモリです。
R/W信号を観測するには周波数帯域10GHz以上の高速オシロスコープが必要ですが、周波数特性はDSP処理によりメーカー間の差はわずかです。
一方で、組み合わせるプローブの特性はメーカーにより異なり、また同じメーカー内でも世代によって差があるのが現実で、理想的なプローブは無いのです。
自身で納得できる特性のプローブを選ぶことになります。

標準付属のプローブとは?その限界は

オシロスコープにはチャンネル数分のプローブが付属してきます。
このプローブは10:1の減衰比で抵抗、キャパシタなどの受動部品で構成されるためパッシブ (受動)・プローブと呼ばれます。

図1 パッシブ・プローブの例

図2 プローブの負荷効果は入力抵抗によるものと、入力容量によるものがある

10:1パッシブ・プローブの入力抵抗は10MΩ、入力容量は数pF~10数pF程あります。
この入力抵抗と容量が回路に入るため、プローブは回路の負荷となり動作に影響を与えます。
このことを「プローブの負荷効果」と呼んでいます。

同じプローブでも負荷効果は測定する回路により変わります。
一般に信号が高速になると回路の出力抵抗は低く、容量も小さくなるため、わずかな入力容量でも信号に影響を与える恐れが高くなります。

パッシブ・プローブでも周波数帯域は1GHzや500MHzとあるが?

10:1標準付属プローブですが、周波数帯域は1GHz、500MHzとあります。これはどういう意味でしょうか?

メーカーがデータシートに表示する周波数帯域は「ソース・インピーダンス 25Ωにて」という条件があります。
具体的には出力インピーダンス50Ωの信号発生器の信号を50Ω終端する、ということです。

図3 プローブの周波数帯域を定義する設定

この状態での周波数帯域になります。

図4 実デバイスにプローブを接続

実際の回路では、デバイスの出力インピーダンスは50Ωではありません。
また動作によって変化することもあります。
負荷も同じです。

極端なことをいうと「本当の周波数帯域はよくわからない」というのが本当のところでしょう。
やはり入力容量には注意を払う必要があります。

さらにプローブの使い方で誤差がでることも

このように信号自体を変化させてしまうプローブの負荷効果に加えて、プローブの当て方により波形ひずみが生じることがあります。

写真は立ち上がり時間2nsのパルスを直接受信した信号波形 (CH1 黄色) と、その信号をプローブ経由で観測した信号 (CH2 青色) の比較です。
ここでは2つの場合を比較しました。

  1. 最短のグラウンド線を使用した場合
  2. 標準のグラウンド線、先端に10cmのリード線を延長線とし使用した場合

本来期待したいのは、

  • プローブを接続した負荷効果は僅少
  • 直接受信したCH1の波形とプローブの波形は同じになる

図5 プローブの接続方法を変えた場合

1のケースでは負荷効果は僅少で、波形再現性は高くなりました。

2のケースでは負荷効果が増え、大きな乱れ (リンギング) が発生しています。

これはグラウンド線とリード線の寄生インダクタンスと入力用容量により起こった共振減少です。

これでは満足な波形観測ができません。
もちろん1の接続が理想ですが、現実には困難な場合がほとんどで、改善するためにはテクニックが必要です。

プローブは目的によって使い分ける

測定する信号の形態はさまざまです。
例えば、ノートパソコンの狭いヒンジ部分を通る信号線は線路数を減らすためにパラレル・シリアル変換された高速シリアル・バス、LVDSが使われます。
現在ではUSB、Ethernet、HDMIなどのインターフェース・バスはほぼ高速シリアル・バスで差動信号が使われています。

また電源やインバーターなどのパワー・エレクトロニクスでは、グラウンドから浮いている2点間の波形や電流波形を測ります。

いろいろな信号に対応するため、専用プローブが用意されています。

図6 さまざまなプローブで多種の信号に対応

高周波回路には低入力容量のアクティブ・プローブ

高周波回路測定には、低い入力容量 (1pF以下) のアクティブ・プローブが負荷効果を小さくする点で有利です。

図7 高周波用アクティブ・プローブの例

私が計測器の世界に入った頃、回路のクロック周波数はまだ10MHz程度、一般的なオシロスコープの周波数帯域は100MHzでした。

もちろん付属プローブは10:1パッシブ・プローブでした。

ところが200MHzのオシロスコープにはアクティブ・プローブ用の電源端子が装備されていました。
200MHzの周波数帯域を生かすには、「アクティブ・プローブも必要なケースがありますよ」という暗黙のメッセージだったと思います。

グラウンドの問題

ほとんどのオシロスコープ入力の非絶縁、グラウンドは共通です。
そのためグラウンド電位を基準にすべてのチャンネルの測定を行います。

図8 任意の2点間の電位差を測れる差動プローブ

絶縁入力は自由に2点間の電位差波形を測れるので便利です。
多くのレコーダー、一部のオシロスコープでは絶縁入力ですが、周波数帯域を高くすることは困難 (100MHz程度まで) なため、ほとんどオシロスコープが非絶縁入力です。

そのため任意の2点間の電位差を測るには差動プローブ、特にパワー・エレクトロニクスでは高電圧に対応した高電圧差動プローブが使われます。

電流波形を測るには

図9 DC/AC電流プローブの原理

電流は回路をカットし、抵抗を挿入すれば電圧に変換できますが、グラウンドに流れ込む電流以外では差動プローブが必要です。
回路をカットする必要のないクランプ式の電流プローブ、特にDCから測定できるDC/AC電流プローブが便利です。

電流が流れると周囲に磁界が発生します。
ホール素子はDC/低周波の磁界センサーとして、巻線はトランス動作にて交流磁界センサーとして働きます。
コアは凹型とスライドするI型の組み合わせで簡単にクランプできます。

電流プローブは許容電流に要注意

電流プローブの測定許容電流は周波数の上昇に伴い極端に低下します。
この許容電流は周波数ディレイティング・カーブでデータ使途に記載されています。

あるお客さまがモータ・ドライブ用インバーターの電流測定で30Aの電流プローブを使われました。
20A程度の電流のはずですが、測ってみると理論値から大きくずれています。
実は電流の周波数を見ると電流プローブの許容電流値を超えていました。
電流プローブではコアを使っていますので、許容値を超える電流では破損する以前に飽和を起こしてしまいます。
このケースでは50Aのプローブに変更して解決できました。

プローブの伝搬遅延には要注意

電気信号の伝わる速度は、同軸ケーブルやプリント基板では光速の約2/3、1mの同軸ケーブルでは入出力で約5nsの遅れが発生します。
ケーブルによる遅延に加えて、アクティブ・プローブの回路の遅れもあります。
同じプローブだけを使用するのであれば、各チャンネルのプローブの遅延時間は同じなので、プローブの伝搬遅延時間は特に気にする必要はありません (周波数帯域がGHzオーダーになると、同じ型名のプローブを使用しても、個体差により時間ずれが起こることもあり、やはり補正が必要です。)。
しかし異なるプローブを組み合わせる、例えば電圧・電流波形を同時に取り込む場合には伝搬遅延時間の差を補正しないと時間差を正確に測定することはできません。

図10 異種プローブの組み合わせでは伝搬遅延時間に注意

補正はオシロスコープのチャンネル・メニューで行えます。
同位相の電圧・電流を測って、2つの信号の時間ずれが無くなるように調整します。
このように測定対象に合わせて最適なプローブを選び、適切に使用することにより、測定目的を果たすことができます。

高価なアクティブ・プローブを壊さないために

高周波用のアクティブ・プローブは高性能ですが、耐圧が低く、過入力や静電気で破損する可能性があります。
しかしそれ以上に誤った使い方も散見されます。

図11 グラウンドに現れる交流電位

家庭の洗濯機置き場の電源コンセントには緑色のグラウンド端子が設置されています。
洗濯機の電源ケーブルにある緑色の線を接続することで、万が一漏電が起きても大地グラウンドに流れて安全が保たれます。
計測器の電源プラグも3ピン構造になっていて、真ん中の丸ピンはグラウンド、3ピンのコンセントに接続すれば自動的に筐体が大地グラウンドに落ちるようになっています。
これを無視して3-2アダプターを使ってグラウンドを浮かすと、プローブ側のグラウンド、ターゲットのグラウンドにAC電圧が発生します。
場合によっては数10Vにもなり、アクティブ・プローブを破損してしまいます。
本人は過入力をしたつもりがなく、自然に壊れたと思ってしまいます。

このように測定ターゲットに最適なプローブを選択することが大切ですが、長所もあれば弱点もあり、長所を活かして、適切に使用することが正しい波形測定への王道になります。

※本ページに使用しているテクトロニクス社製の製品画像は、テクトロニクス社公式サイトより引用しています。
 横河計測社製の製品画像についても、画像の使用許可を得ています。

執筆者

渡邊 潔氏 (ワタナベ計測コンサルティング代表)
東京農工大学工学部電子工学科卒業後、計測器メーカーに入社。
電子計測のコンサルティング営業、アプリケーションエンジニアなどを経験後、 計測コンサルタントとして計測器の選定アドバイス、使いこなしセミナーなどを年間数10回実施。
主に電機メーカーのエンジニアへ向けたセミナーは累計500回以上、受講者は6000人を超える。
また、技術系雑誌のライターとしても記事の執筆を手掛け、著書も多数。

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