開発秘話 20年連続国内トップシェアに輝くマウス(前編)

国内開発だからこそできる!
日本人に合った「こだわり」のマウス開発秘話(前編)
エレコム株式会社

パソコンやデジタル機器の周辺機器、サプライ品の開発・製造・販売を行っているエレコム株式会社。
パソコンに欠かせないマウスの開発は30年以上の歴史を持ち、国内で開発を行っている、数少ない会社の一つです。
今回の開発秘話インタビューは、エレコム株式会社でマウスの開発・プロモーションに携わる皆さんにお話を伺いました。
1.30年以上前から、「手になじむ」ことにこだわってきたマウス作り
———エレコムではいつからマウスを開発・販売しているのですか?

エレコム株式会社
商品開発部
ヘルスケア&ペリフェラル課
I/Oデバイスチーム
チームリーダー
古畑:最初にマウスを発売したのは、まだ日本で Windows が発売される前の1988年でした。それまでのマウスといえば四角形でしたが、「エッグマウス」と名付けられたそのマウスは、その名の通り、卵型で持ちやすさにこだわったマウスでした。
当時としては斬新なデザインが評価されて、1989年にグッドデザイン賞をいただいています。
———最初の製品からから形にはこだわりがあったんですね。今はさらに形にこだわっているとか。

エレコム株式会社
商品開発部
ヘルスケア&ペリフェラル課
I/Oデバイスチーム
スーパーバイザー
平田:現在主力のEX-Gシリーズは、「握りやすさ」に非常にこだわっています。いかに手にフィットして持ちやすいかを追求して形を決めました。このEX-Gシリーズは、実際に医師の方々に評価いただき、AskDoctors評価済み商品として98%の先生方からお墨付きをいただいています。
———お医者さんにも認められているとはすごいですね。
平田:持ちやすさを追求していった結果、手の大きさに合わせて、S、M、Lと3種類をラインアップしています。今のEX-Gシリーズは2代目になるのですが、初代が登場したときは、MとLだけをラインアップしていました。
実際に販売してみると、小さな手のお客さまからも、自分の手に合ったマウスが欲しいという声が多く寄せられ、あとからSサイズを発売。2代目からは最初から3サイズで発売しました。同じシリーズで3サイズ展開することはレアケースですので、実際に触っていただければこだわりを感じていただけると自負しています。
古畑:大きさが異なるモデルを出すということは、それぞれ異なる金型が必要になってきます。金型の製作には一つ数百~数千万円ぐらいかかるので、投資にはなるのですが、お客さまからご要望が強いので、ニーズにお応えするということで頑張っています。

(右)医師監修により、握り心地の良さを検証する官能評価試験を実施。日本で初めて医師100名中98%が「勧めたい」としたマウスEX-Gシリーズ。
2.デジタル機器なのに設計はとてもアナログなマウスの形状設計
———そのこだわりのマウス、実際にはどうやって形状を決めているのですか?
平田:これが非常に泥臭い作業なんです。デザイナーの佐藤が、紙粘土をこねて形を作り、それを紙やすりで削りながらミリ単位以下の調整を行って、持ちやすい形を見つけ出していきます。佐藤はいくつものモックアップ(紙粘土の模型)を自在に正確に作り上げるので、われわれは「人間3Dプリンター」と呼んでいます(笑)。
———今は3Dコンピューター利用設計システム(CAD)で設計するのが普通だと思っていましたが。

エレコム株式会社
商品開発部 デザイン課
課長
佐藤:3D CADでは形状の確認はできますが、実際に持ってみた際の感触はモックアップを作って、触れながら調整していかないとわかりません。特にEX-GシリーズはS、M、Lは単に大きさを変えたものではなく、それぞれのサイズに合わせて持ちやすさを追求しているので、サイズごとに微調整を繰り返して、形状を決めています。
最終的にモックアップで決めた形を3Dスキャナーでスキャンしてデータ化しているので、普通の筐体(きょうたい)設計とは逆のアプローチを取っています。
———持ちやすさ、使いやすさへのこだわりの強さをとても感じます。

佐藤:手に触れるものですから、CADだけ使って設計するのではデザインしたものだとは言いがたいと思います。
平田:毎日のように使われるマウスにとって、使い勝手はとても重要です。握りやすさ、動かしやすさはもちろんのこと、ボタンのクリック感の良さ、耐久性も大切です。その一方で価格を抑えることも大切です。その点でEX-Gシリーズは三つのサイズを絶妙なバランスで部品共通化するなどトータルでのコストを抑えられるように工夫しています。
また、筐体(きょうたい)に使える素材もコスト面から選択肢が限られているので、形状や表面加工の使い方を工夫することで製品の質を上げています。
———こだわり具合が半端ないですね。ほかにこだわっていることはありますか?

エレコム株式会社
商品開発部
ヘルスケア&ペリフェラル課
I/Oデバイスチーム
多部田:用途によっても形状や機能のニーズが異なってきます。例えばCAD用のマウスは画面上での移動距離が大きいために、操作中持ち上げることが多いので、持ち上げやすいように重心バランスを考えた設計をしています。ちなみに、このCAD用のマウス、いまどきとしては珍しいスクロールホイールがない3ボタンなんです。
平田:ホイールがないマウスは、CADの世界では長らく使われていたのですが、海外メーカーが販売していたものがなくなるというので、当社で出すことにしました。つまり、現在は当社だけが提供する形になっています。開発するにあたっては、これまでの海外製と違って日本人が使いやすいようなサイズで設計したので、日本人の手にフィットするようになっています。さらにCADソフトではよく使われる中央ボタンを押し込んだときの使い勝手、クリック感にもこだわったので、先ほどお話した持ち上げたときのバランス感含めて、SNS上では話題になり、法人販路でも非常に大きな反響をいただいています。
———ホイールがないマウスなんてあったんですね!

平田:ある意味とてもニッチではあるのですが、日本人は結構こだわりが強いようで、こういったニッチなものでも、熱狂的なファンがいることがよくわかります。その意味では、CAD用マウスだけでなく、トラックボールもその一つだと思います。
インタビュー後記

エレコムのマウスは、国内での販売数を元に決まる「BCNアワード」のマウス部門で20年連続受賞しています(2020年9月時点)。つまり国内のマウストップシェアの地位を20年間守り続けているということですね!その背景には、「手に触れるものへの強いこだわり」があるということがよくわかりました。
次回は、隠れた人気商品というトラックボールマウスについてと、ユーザーのニーズに応えるものづくりについて掘り下げていきます。
ご意見・ご感想をぜひお聞かせください。
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メーカー定価より安価に販売しています。1個からご購入いただけます。