NewsPicks主催イベント
対談レポート シェアリング時代のビジネススタイル。「持つべきもの」と「持たざるもの」【後編】

NewsPicks主催イベント 対談レポート
シェアリング時代のビジネススタイル。「持つべきもの」と「持たざるもの」【後編】

シェアリングサービスはコンシューマ向けだけにとどまらず、ビジネスユースでも利用が広まっている。オフィスやITインフラ、テクノロジーツールなどを、所有するのではなく利用にシフトする動きが活発だ。そこでNewsPicksでは、「所有から利用」のメリット、「持たざるビジネススタイル」「持たざる経営」の真髄を現場で活躍するビジネスパーソンとともに考えるイベントを開催した。オフィスのあり方、シェアリングサービスに最前線で向き合う登壇者の話をリポートする。


特別対談に続いては、澤山氏をモデレータにパネルディスカッションを開催した。登壇者は持たざるビジネスのサポートするサービスを提供する4社の面々。freee、スペースマーケット、横河レンタ・リース、インテルの4社のキーパーソンが「利用」の価値について語り合った。

価値をもたらす世界観を伝え続けた

澤山 使いたい時に使いたい分だけ使えるサービスを提供、あるいはその環境をサポートしているみなさんをお招きしました。まずは、持たざる経営とは何なのか伺いたいと思います。

重松(スペースマーケット) スペースマーケットは、セミナーやイベント向けスペースをお貸しするサービスで、パーティースペースや古民家、お寺、島を丸ごとなど1万スペースが登録されています。

重松大輔 スペースマーケット 代表取締役CEO1976年、千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年、NTT東日本入社。主に法人営業企画、プロモーション等を担当。 2006年、フォトクリエイトに参画。新規事業、広報、採用に従事。2013年7月東証マザーズ上場を経験。2014年1月、スペースマーケットを創業。2016年1月、一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任。

私が起業した原点は、自社のセミナールームがほとんど使われていなくて、本当にもったいないと感じたことでした。一方で、新卒採用セミナーを開催するとなると、コストをかけて外の会議室を借りる必要があった。この需給のアンバランスは、ビジネスになると思ったんです。

最初はあまり受け入れてくれないビジネスでしたが(笑)、起業から5年ほど経ちシェアリングサービスが台頭した今、貸す人は使っていない時間に儲かり、借りる人は安く借りられる時代にやっと突入したと思います。

持つなら徹底的に稼動させる。持たないと決めたなら徹底的に持たず効率的手段を探して利用する。それが、これからの時代のスタンダードになると思っています。

澤山 すべて「持つ」という選択肢ではなくなってきたからこそ、スペースマーケットのビジネスが成長しているということですね。freeeの佐々木さんは、クラウド会計サービスを世の中に広げ、持たざる経営を一気に進めた立役者です。

佐々木(freee) 以前携わっていたベンチャーでCFOをしていたことがあってその時の体験がfreee創業のきっかけでした。

佐々木大輔 freee 代表取締役社長一橋大学商学部卒。専攻はデータサイエンス。2008年より Google に参画、アジア・パシ フィック地域での中小企業向けマーケティングチームを統括。2012年7月、「スモールビジ ネスに携わるすべての人が創造的な活動にフォーカスできるよう」な社会を目指してfreee を創業。Google以前は、博報堂、未公開株式投資ファームでの投資アナリストを経て、レ コメンドエンジンのスタートアップであるALBERTでCFOと新規レコメンドエンジンの開発を兼任。

ある経理担当者が本当に毎日膨大なデータ入力をしていたんです。やり方がおかしいのではないかと思い、担当者の動きをひとつ一つウォッチし、何のためにしていることなのか、ムダではないのかと見ていると、どの作業も重要でした。

悪いのは、帳簿を付けることしかできない会計ソフトでした。そして、経理の人のさまざまな仕事が、全部別のツールで行われていたんです。
中小企業の経営にクラウドを浸透させたいと思っていたこともあり、経理業務全体、会社の資金運用に必要な機能を全部支える機能を、フレキシブルな調達・運用ができるクラウドで提供しようと思い6年前にfreeeを立ち上げたんです。

澤山 スペースマーケットもfreeeも新しいビジネスモデル、サービスモデルでした。最初は風当たりが強くなかったですか。

佐々木(freee) 会計ソフトを扱っている人たちは、会社内で保守的な方々です。口座情報をはじめ、情報を外に出すのはリスクが大きいという声が多く、会計事務所としては扱うシステムが増える為なかなか受け入れてもらえませんでした。

一方で、これだけ反対されるということは過去に同じようなビジネスアイデアを持っても参入障壁になっていたのではないかと思い、多くの人に刺さるサービスというよりも当初は、こういうサービスを待っていたアーリーアダプターにだけ刺さればいいという姿勢で臨み、クチコミで広まっていきました。

マーケット全体を見すぎて、こういう人には使えないという議論をしなかった。まずは刺さる人だけに提供して、徐々にスコープを広げていく戦略をとりました。先読みしすぎないで、まずは少なくてもターゲットを細分化して絞り、自分たちの成長スピードに合ったサービスを開発して提供することが大事だと思います。

企業活動の「根幹」、パソコンにも持たないメリット

澤山 インテルは、PCやサーバーのCPUを提供していますが、ユーザーが「持つ」ことを前提に考えているような気がしますが、今回のテーマについてどうお考えですか。

井田(インテル) インテルは、PCやサーバーのCPUを開発、製造している会社です。毎年のように微細化したり、アーキテクチャを進化させたりしていて、CPUのサイズを小さくしつつ消費電力を抑えて、同時にパフォーマンスを上げるチャレンジを常にしています。

井田晶也 インテル 執行役員パートナー事業本部長 1991年、州立アリゾナ大学芸術学部卒業。2006年 インテル株式会社入社。協働プログラムマーケティングマネージャー、リテイル統括部 統括部長、パートナー事業統括部 事業括部長を歴任。2015年、執行役員セールス・チャネル事業本部本部長。2017年から現職。

さまざまなシェアリングサービスやクラウドの登場でビジネスパーソンは持たなくてもいい環境が整ってきましたよね。ただ、それはPCやスマホといったデバイスが進化していることが裏側にあるかなと思います。

ウェブベースのアプリにしても、オンラインウェブ会議にてしても、最近登場したものではありませんよね。以前から存在していたけど、普及しなかった。それが今、普及しているのは、ネットワークの進化もありますが、デバイスのスペック、主にCPUの能力が上がったことが主因だと思います。手前味噌ですが、その進化の過程に当社も少なからず貢献できているかなと思っています。

それと、パソコンは所有するものという一択も変えていきたいと思っています。これまではPCを「所有」して何年も使用するのが当たり前でしたが、これでは数年ごとにアップデートされた最新技術、機能を享受できない。パソコンにもクラウドのように「利用」するサブスクリプションモデルがあってもいいと思っています。

私たちが日々研究開発を進めている進化したCPUを載せた最新のPCを、やはりお客様には使っていただきたい。ですから、買ったら5年は使うものとか、そういう固定観念を取っ払って、もう少しフレキシブルなサービスモデルが浸透してもいいと思っています。

澤山 今の話で言えば、横河レンタ・リースの金川さんに話を継いでもらいたいと思います。

金川(横河レンタ・リース) 今の国内全体を見てみると、法人が使うパソコンのうち、全体の90%は購入または5年程度の契約が中心となるリースで調達しているんです。レンタルはたったの10%どまりとなっています。

クラウドとサブスクリプション、シェアリングという持たずに利用するコンセプトの言葉が出ているなかで、「レンタル」という言葉は古めかしいですが、持たずに利用するという観点でいえば同じで、当社はこのビジネスモデルをかなり前から展開してきました。

私たちのビジネスの主軸は、測定器や計測器のレンタルでしたが、ここにきてパソコンなどIT系プロダクトのレンタルの要望が非常に増えてきました。まだパソコン市場全体の10%程度しかないマーケットですが、かなりの手応えを感じており、今後ますますレンタルとう利用モデルの市場は広がっていくとおもいます。

金川裕一 横河レンタ・リース 代表取締役社長1982年、 横河電機製作所入社(現:横河電機)、オフィス機器営業部へ配属。1996年、社内ベンチャー制度で横河マルチメディア(現:キューアンドエー)を設立し、代表取締役社長に就任。ICTデジタル製品に関連したサポートサービス事業を展開。経営者として2016年4月から現職。主な著書に「幸働力経営のススメ」(2011年)、「幸働力経営のススメ2」(2016年)がある。

澤山 ここ数年で急に成長してきているんでしょうか。

金川 急ですね。その背景には、アプリケーションのクラウド化やサブスクリプションモデルとの親和性が高く、デバイスも利用したいという要望が増えてきたということもありますが、なによりWindows 10が半年に一回のペースでアップグレードしていくため、企業のPCにおける運用負荷がより大きくなり、中堅、中小企業では対応しきれないという実情があります。企業でパソコンを利用するといっても、単純にスタッフに渡して「はい、終わり」ってわけにはいきません。

必要なソフトウェアや管理ツールを入れて、セキュリティ対策も施さなければならない。トラブルがあったときには誰かが対応しなければならない。こうした運用の手間ってバカにできない作業でコストがかかります。

そこで、デバイスも含めて利用環境をサービスとして利用したいという要望が増えてきていると感じています。

レンタルであれば、こうした運用までを含めたメンテナンスを、レンタル利用料に含まれたかたちで面倒見てくれるという利便性が評価されているのだと思います。

当社では、Simplit Edgeという「Device as a Service」のモデルをお届けすることで、スタートアップ企業がより本業に集中するための支援をしていきたいと考えています。

澤山 PCは確かに所有意識が非常に強いですよね

井田 もともとPCは「パーソナルコンピュータ」の略ですから、パーソナルに所有するものでした。それがクラウドによって誰がどこでも使える「パブリックコンピュータ」に位置づけが変わっていると思うんです。

世界でみても、所有する割合は大きいですが、PCで動くクラウド、ソフトウェアが徐々にサブスクリプションモデルになり、またウェブベースになっているのに、ハードウェアであるPCは依然として、買い切りではアンマッチな気もしています。

ですので、私たちCPUメーカーが利用サービスを提供することはないですが、横河レンタ・リースが手がけるサービスは今後もっと受け入れられていくと思います。

澤山 この「持たない」流れの中で、逆に持っておくべきものは何でしょうか。

佐々木 信頼関係じゃないですか。freeeでは社内の効率化を徹底していて、複合機を限られたフロアのみに置き、ペーパーレスも徹底しています。そうやってコストを減らして貯めたお金は、結局全部を信頼関係の構築に投資しているんです。

小さな組織が急拡大するとき、信頼関係のために大きな投資が必要なんですよね。それは、社内イベントやパーティーの開催、1on1ミーディングのコストなどです。支え合って新しいブレイクスルーを見つけていくのは、信頼関係があってこそできることなんですね。

それから、Amazonのカスタマーサポートが内製化にこだわっているように、顧客接点に関する機能は、できるならアウトソースしない方がいいと思うんです。

金川 すごく似た話で、優秀な人材をどれだけ持つか。企業のコアコンピタンスを担う存在は持たないといけないですよね。いい人材に、いい経験をさせて、いい環境を整えれば、いい結果を出してくれる。経営者は、その哲学をしっかり持っておかないといけないと思います。

そのために、限りある資源を有効活用するために、「持つもの」「持たざるもの」を選定して、最適な所有と利用の仕方を各社が考えるべきだと思っています。

出典元

NewsPicks EVENT REPORT 「持たざる経営のススメ」

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