学校学習用PCにおけるDaaS活用の可能性と有効性 ~広島県における実証実験を通して~

作成日:2021/02/20

お役立ちコラム

横河レンタ・リースでは、経済産業省が令和2年度「未来の教室」実証事業として採択した、広島県教育委員会が進める「広島LIFE-TECH ACADEMY NETWORK構想」で使われる高校生向けのPCを DaaS(Device as a Service)で提供しています。

今回は、このプロジェクトにコンサルタントとして参画している株式会社キャリアリンク代表取締役の若江眞紀氏と、実際に現場の教員とともにカリキュラム開発と生徒の支援に携わっている小池紗也香氏にお話を伺いました。

若江 眞紀 氏
株式会社キャリアリンク代表取締役
(教育サービス・コンサルテーション)
株式会社アクセプト代表取締役
(マーケティングコンサルテーション)
キャリア教育プログラム開発推進コンソーシアム 事務局長
全国[よのなか]科ネットワーク 事務局長
文部科学省 国立教育政策研究所 評議会 評議員
文部科学省 中央教育審議会 初等中等教育分科会 委員

1987 年に株式会社アクセプト設立。
生活者からの視点に基づいた新たな市場戦略により、企業のマネジメント戦略、マーケティング戦略の策定・実施を総合的にサポートするクリエイティブ・コンサルティング事業を展開し、現在も活動中。
子育てを通して日本とアメリカの教育に同時に触れた経験から、日本の教育に課題を感じ、1991 年に保育・教育分野に特化した株式会社キャリアリンクを設立。
企業の教育CSR や官公庁・自治体の教育施策へのコンサルティング事業を通じて、産業界と教育界をつなぐ次世代育成に取り組む。

小池 紗也香 氏
株式会社キャリアリンク

「未来の教育」実証事業プロジェクトで、広島県立廿日市高等学校、広島県立庄原実業高等学校において、カリキュラムアドバイザーとして現場の教員とともにプロジェクトのカリキュラムを作成・実施している。

経済産業省と広島県教育委員会が連携するICTを使った高校の授業改革プロジェクト

— 今回のプロジェクトの概要をお聞かせください

若江:広島県では、地方の創生は教育が核であるという湯﨑英彦県知事の元、「日本一の教育県の実現」を目指し、積極的な教育改革を行っています。その一環として、民間出身で横浜市の中学校校長の経験を持つ平川理恵氏を県教育委員会の教育長に招聘(しょうへい)、広島版「学びの変革」アクション・プランを推進しています。

 その一方で、経済産業省は「令和の教育改革」を目指し、文部科学省と協調しながら「未来の教室」を目指した実証実験を行っています。「未来の教室」のビジョンは ①学びのSTEAM 化、②学びの自立化・個別最適化、③新しい学習基盤づくりを、三つの柱に据え、ICTを積極的に活用した新しい教育・教室の姿の実現を目指しています。

 そして、令和2年度(2020年度)の「未来の教室」実証事業の実証フィールドに広島県が採択され、広島県教育委員会が推進する「学びの変革」と有機的に連携させて実施することになったのが、県立高校における「STEAMカリキュラム」の開発です。

※ STEAM:科学(Science),技術(Technology),工学(Engineering),人文社会 (Arts),数学(Mathematics)等の各教科での学習を実社会での課題解決に生かしていくための教科横断的な教育

— 具体的にはどのようなことが行われるのでしょうか

若江:県立の廿日市高校(普通科)、庄原実業高校(生物生産科)の2校において、2年生を対象に課題探究型の実践的プロジェクト学習を行っています。廿日市高校では、株式会社YMFG ZONEプラニングの講師とともに「地域課題解決を通じた経済循環」をテーマに、庄原実業高校では「10年後の庄原の農業」をテーマに学習を進めてきました。

いずれの学習においても、従来の高校の授業のような学校の枠内、教室の枠内で学びを進めることはできません。
インターネットを使いさまざまな情報を集めることや、学校を離れて地域の人々に話を聞くフィールドワークや、遠隔地にいる専門家に話を聞く、ということなども必要となりますので、ICT機器は必須と言っても過言ではありません。

PCの調達に横河レンタ・リースのDaaSを活用し学校・教員の負担を軽減

— 学習で使うPCはどのように調達されたのでしょうか

若江:実は広島県の県立高校では2020年の新入生より、ひとり1台のPC導入を推進しています。これは生徒が「文房具」の一つとしてPCを購入するもので、いわゆる「BYOD」的なアプローチです。しかし、これは今年の1年生からが対象であり、2年生以上の在校生は対象外となっています。したがって、今回のプロジェクト用にPCの調達が必要でした。

 そこで、今回のプロジェクトに協賛しているインテル株式会社に相談したところ、紹介されたのが横河レンタ・リースでした。そこで横河レンタ・リースに相談したところ、DaaS(Device as a Service)のスキームを提案いただきました。

 これまで私たちは20年にわたり教育現場へのICT導入を提案していましたが、高校を含め教育現場はこの20年足踏み状態でした。いまだに先生さえひとり1台という環境ではなく、PCはPC教室にだけ設置されている状態が続いていました。また、ICTを教育にどう生かすか、という部分も進んでいませんので、先生方もICTに明るくない先生が大半を占めているのが現状です。したがって、PC導入にあたって先生方がセットアップを行う際や、トラブルが発生した時の対応に問題がありました。

 その点において、横河レンタ・リースのDaaSを使えば、PCのセッティングは生徒たちが自分自身でできるようにセットアップされ、障害発生時もすぐに代替機を手配してくれるということで、ITリテラシーがあまり高くない教員にも負担が少なく導入できると感じ、県教育委員会に提案したところ、了承してもらえましたので、横河レンタ・リースより Microsoft Surface をDaaSで調達することになりました。

— 実際のPC導入はスムーズに進みましたか

小池:実際に2校の生徒にセットアップを行ってもらいました。生徒たちは横河レンタ・リースに用意していただいたA4 2枚ほどの指示書を見ながら、開梱(かいこん)したばかりの Surface を使ってセットアップを進めていきいましたが、Windows Autopilot によってシンプルな操作でできましたので、思っていたよりも簡単に進めることができていました。
セットアップ中のトラブルのほとんどがパスワードやアドレスなどの入力ミスでしたが、2台ほどPC本体の不具合がありました。それはすぐに代替機を用意いただけましたので、DaaSの良さを実感しました。

PC導入時の様子(広島県立廿日市高校)

— 使用面でのDaaSのメリットを感じられることはありますか

小池:実際のフィールドワークでは、生徒たちがSurfaceとポケットWi-Fiを持って、現地調査や記録をしたり、インタビューの場で使ったりということもかなりやっています。今のところ故障した、というような事故は発生していませんが、持ち出す以上そういうトラブルは起こりうると考えています。DaaSであればこのようなトラブルが起きても、すぐに代替機を用意して送ってもらえますし、データレスPCということでデータ移行も不要で、再セットアップも簡単にできますので、PCの故障による学びの中断は最小限にできると考えています。DaaSは教育現場の学びの変革に適しているサービスだと感じています。

— 実際にプロジェクトに参加している生徒さんたちに変化はありましたか

若江:先生たちからもコメントをいただいていますが、一番変化があったのは、生徒たちが「受け身」だった授業姿勢が「自発的」な姿勢に変わったことです。インターネットで調べものをしているうちに、関連する物事をどんどん学んでいくようになり、もともとの教科や専門領域を超えて学んでいくことが目立って増えているといいます。
 また、社会人とのコミュニケーションが増えたことで、生徒たちがコミュニケーション能力の重要性に気づき始めています。積極的な生徒からは、これまでだったらリーチすることが難しかった、遠方の専門家や大学教授などにインタビューしたいという要望が出てきて、実際にリモートで話を聞くことができた、ということも起き始めています。
 このように生徒の学びの姿が変わると、教員の指導や生徒へのかかわり方も変わっていきます。まだプロジェクトがスタートして3カ月ほどですが、現場には確実な変化が出てきていると実感しています。

DaaSは学校教育のICT機器運用に最適

— コンサルタントとして、キャリアリンクがDaaSに期待していることはどのようなことでしょうか

若江:現状の初等(小学校)・中等(中学校・高校)教育現場の実情を踏まえますと、PCの調達やセットアップ、障害時のサポート、ライフサイクルなどの考慮をしますと、DaaSはとてもよいソリューションだと感じています。しかし、その導入には大きな壁があります。

 皆さんもご存じの通り高校は義務教育ではないため、教科書も学生側負担になっています。つまりPCも同様の扱いです。最初にお話した通り、広島県でも県立高校でひとり1台導入を推進していますが、費用を負担するのは生徒側であり、学校・行政側ではありません。今回のプロジェクトは、協賛企業の協力で費用が賄われているため生徒は無償で使うことができますが、全県となってはそうはいかないでしょう。今回、県教育委員会は調達も実証実験の一つととらえ、DaaSというスキームのメリット・デメリットを把握したいと言っており、将来、何らかの施策としてDaaSを使うという可能性はなきにしもあらずではありますが、現行の枠組みの中ではDaaSを使ったPC調達は難しいと言えるでしょう。

 では、小学校や中学校ではどうなのかといいますと、現在、文部科学省が強力に推進している「GIGAスクール構想」では、PCなどのICT機器は国費をもって賄うとしています。しかし、GIGAスクールでのPC調達は「購入」に限られています。つまり、レンタルシステムを使ったDaaSによる調達はできません。

 個人的にはGIGAスクールこそDaaSを使うべきだと考えています。ICT機器を使った授業は小学4年生から始まり、中学3年までとされています。PCを学校が所有して児童・生徒に貸与し、それぞれ3年ずつ使ったら次の代に引き継ぐもくろみなのでしょうが、GIGAスクールで推奨されている最小限のスペックを持つPCのライフサイクルは3年が関の山、到底6年持つとは思えません。また、学年が下がれば下がるほど、落下などによる故障のリスクは高まります。まさにこのような局面ほどDaaSのサポートが生きてくると思います。

 違う観点からいいますと、世の中ではさまざまなサブスクリプションサービスが登場してきており、まさに「所有から利用へ」という流れのある中で、教育だけがかたくなに「モノを買い・維持・運用する」ということを続けていていいのでしょうか、という疑問もあります。コロナ禍を経験し、教育現場も遠隔授業の洗礼を受けた今、ICT化は待ったなしですが、一方で現場に目を向けますと、さまざまな業務に追われる先生方がいます。さらにICTの管理・運営などの業務を先生に負わせてしまったら、学校自体が回らなくなってしまうでしょう。学校もICT化やPC調達という観点でDaaSを活用した、「サービスを受ける」という世の中の流れに歩みを合わせることで、教員の働き方改革にもつなげられるのではないかと考えています。

Device as a Service から学ぶ、あるべきPC運用

Device as a Service の活用で、業務を楽にしませんか?

DaaSに関するお問い合わせ・ご意見・ご感想をお聞かせください

お問い合わせ お問い合わせ

お気軽にお問い合わせください

ページの先頭に戻る