プロジェクト・コスト管理 (2)

作成日:2021/11/15

お役立ちコラム

プロジェクト・コスト管理 (2)

前回に続きプロジェクトのコスト管理について実践的に解説します。
前回はプロジェクトコストの見積りをしてコスト・ベースラインを作るところまで説明しましたが、今回はコストのコントロールについてです。

進捗 (しんちょく) の収集

前回はアクティビティ(WBSの末端要素)の例として以下を示しました。
アクティビティはタスクとも呼ばれます。

プロジェクトの作業進捗は、プロジェクトメンバーからアクティビティ単位で収集します。
各メンバーが実施中のアクティビティに対して、週次で次のデータを収集します。

予定:アクティビティの予定工数(上記表では30時間)
実績:アクティビティの累積作業時間の実績値
今週:アクティビティの今週の作業時間
残予測:アクティビティ完了までに必要な残り作業時間の最新予測
開始日:アクティビティを開始した日、または、開始する予定日(上記表では2021.09.15)
完了日:アクティビティを完了した日、または、完了する予定日

プロジェクト管理ソフトによってはWebアプリとしてタイムシート提出機能を提供しているものもあります。
提出/収集機能がなければExcelなどで提出/収集してPMがプロジェクトデータを更新し、ベースラインと比較できるよう最新の予測を出します。

以下に収集したデータの例を示します。

図1. 週次進捗報告の例

PMはまず今週の作業時間合計を見ます。
この例では44時間です。
労使協定(36協定)により時間外労働時間の上限が決まっていますが、メンバーが過労にならないように注意します。
特定のメンバーの負荷が増えてきたらプロジェクト外の作業をオフロードするなどの対策を上司と相談します。
次にプロジェクトに時間を使えているかをチェックします。
納品したプロジェクトのサポート、あるいは次のプロジェクトのプリセールス活動、旅費精算などの間接作業など、どうしてもプロジェクト以外の作業は発生します。
この例では44時間のうち12+28=30時間をプロジェクトに使えていますから68%です。
この割合はとても重要です。
プロジェクトの遅れの一因は、メンバーが他の業務のためにプロジェクトに十分な時間を使えないことです。
その場合は過残業のときと同様、プロジェクト外の作業のオフロードを検討します。

次に個別のアクティビティの進捗を見ていきましょう。
WBS ID 5.1.1は完了しました。
実績工数は27時間で予定工数25時間を2時間オーバーしました。
WBS ID 5.1.2は作業中です。
今週から作業を開始し18時間使いました。
メンバーはあと10時間で終わると予測していますから合計28時間で完了する見込みです。
予定工数30時間を2時間下回る見込みです。
このように実工数が予定工数を上回ったり、逆に下回ったりするのは通常のことであり特に問題ではありません。
メンバーに各アクティビティーの作業時間の予実対比の習慣をつけさせることが大切です。
最後にWBS ID 5.1.3は来週から開始できる見込みです。
PMはメンバーから今後の進捗に関して懸念があれば聞いておきます。

前回も述べた通り、個々のアクティビティが予想工数を上回ってもプロジェクト全体のコストへの影響は大きくありません。
しかしWBSに抜けていたアクティビティがあると大きなインパクトがあります。
WBSのベースラインにない作業は、必ず変更管理プロセスを通して追加し記録しておく必要があります。
これはプロジェクト・バッファをきちんとコントロールするためだけでなく、将来のプロジェクトで漏れのないWBSを作るのにも役立ちます。

EVM (Earned Value Method)

それでは前回説明したS字カーブのコスト・ベースラインをEVMで進捗管理する、および、プロジェクト完了時のコスト予測をしていく方法について解説します。
EVMの詳細はPMBOK®ガイド第6版に詳しいです。
残念ながらPMBOK®ガイド第7版では概要の説明だけになってしまいました。

図2. EVM

まずはEVMの4つの基本要素を紹介します。

PV (Planned Value) 計画価値

承認済み計画予算。
前回説明したコスト・ベースラインと同じです。

EV (Earned Value) アーンド・バリュー

完了した作業がもたらす価値。
具体的には完了済み作業の「予定」の工数に対するコスト(作業時間×時間単価)を足したものです。
計画通り進捗していればPVと同じになります (EV=PV) 。

AC (Actual Cost) 実コスト

完了した作業のコストです。
具体的には完了済み作業の「実績」の工数に対するコスト(作業時間×時間単価)を足したものです。
予定通りの工数で作業完了していれば「実績」=「予定」ですから EV と同じ値になります (AC=EV) 。

BAC (Budget At Completion) 完了時の総予算額

承認済みの総予算です。
コスト・ベースラインにおける完了時の予算です。
具体的には未完了を含めたすべての作業の「予定」の工数に対するコスト (作業時間×時間単価) を足したものです。

これらの値から進捗とコストの差異 (Variance) を求めることができます。

スケジュール差異 SV=EV-PV

0なら予定通り、正なら進んでいる、負なら遅れている

コスト差異 CV=EV-AC

0なら予定通り、正なら予算内、負なら予算超過

図2の例ではSVは負になりますからスケジュールは遅れています。
そしてCVも負になりますから予算超過です。
予定よりコストを使い、予定より遅れているので悪い状況を示しています。

今後の進捗とコストを予測するために指数 (Index) を求めます

スケジュール効率指数 SPI=EV/PV

1以上なら進捗率が計画以上、1未満なら進捗率が計画より低い

コスト効率指数 CPI=EV/AC

1以上なら生産性が計画以上、1未満なら生産性が計画より低い

そしてプロジェクト完了時総コスト (EAC) を予測します。
見積時に生産性を見誤った場合は、現在のコスト差異が今後も続くとみて最初の計算式で予測します。
見積時に大きなスコープ漏れがあった場合は2つ目の計算式を使います。
一部のアクティビティだけ予想外に工数がかかっただけなら3つ目の計算式を使います。

現在のコスト差異が将来も続くと予想される場合

EAC=AC+(BAC-EV)/CPI

最初の見積もりに基本的な欠陥があった場合

EAC=AC+残作業の再見積額

現在生じている差異が一過性

EAC=AC+(BAC-EV)

以上でプロジェクト完了時のコスト (EAC) が予測できます。
EACとBACの差

VAC = EAC – BAC

が承認されたプロジェクト・バッファーより小さければ、コストは予算バッファー内に収まる見込みです。
完了前に予算バッファーを使い切り超過する見込みであれば、PMは新しい計画と共にベースライン変更の承認依頼をする必要があります。
それはPMとしても上司としても避けたい事態ですから、PMは見積もりと進捗管理に責任を持ってプロジェクトを進める必要があります。

まとめ

EVM を使えばプロジェクトの途中で進捗とコストを確認し、プロジェクト完了時のコストを予測することができます。
EVM は PM にとって強力なツールになります。
なお Microsoft Project をはじめとしてSPI, CPI, EACを自動的に計算できるプロジェクト管理ツールもあります。
Excel と電卓だけでなく、プロジェクト管理ツールも活用していきましょう。

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