校正担当者が語る 近年の計測器の校正事情とは?

横河レンタ・リースでは、保有するレンタル品(計測器)の多くを自社で校正しています。また、さまざまなメーカーの計測器を校正できる技術を生かし、お客さまの計測器をお預かりして校正する「受託校正サービス」も提供しています。
当社の校正責任者に、近年の校正事情やお客さまからのご要望、品質維持のコツについて話を聞いてみました。

Q. まずは近年の校正事情について教えてください。

横河レンタ・リース株式会社 菊池氏
菊池 邦英
事業統括本部 MP事業本部
相模原テック テクニカルセンター長

菊池:ひと昔前の計測器と比べると計測器自体が高性能となりました。ものづくり産業の中でも20年前から、携帯電話やパソコンのCPUクロック数が上がり、ユーザーが開発する製品自体も非常に高性能化が進んでいます。
そのため、精度の高い標準値を正確に管理していく必要があります。特に、今後も製品の精密化や複雑化が進むことで、それらの測った値が正しいかを証明することの重要性が非常に増していると思います。

横河レンタ・リース株式会社 鈴木氏
鈴木 正信
事業統括本部 MP事業本部
相模原テック 計測管理課
計測標準グループ グループリーダー

鈴木:計測データが誤っていたことで起こりうるリスクとして、大量の不良品やリコールが出てしまうことが挙げられます。それは、ものづくり企業としての信用やブランドに傷がついてしまうリスクでもあります。
例えば、リコールなどで発生した不良部品を分解し、問題箇所の切り分けを行った際に、開発部品に欠陥があるケースがあります。検査時に、計測データが正しければ本来不具合となるところを、計測データが校正されておらず誤った値であったがために、検査を見落として合格とし、市場に投入してしまったケースがそれに該当します。特に、生活家電メーカーなどのリコール対応がどれだけ大変かは皆さんのご想像の通りです。

Q. 製品不良が発生した際、どこに不具合があるか、原因究明なども必要かと思いますが。

鈴木:万が一、実際の製品に不良が発生した際には、どの開発工程、製造工程で発生した不具合なのか、製造工程をトレーサビリティでさかのぼれることが必要です。特に、それらを入念に管理しているような業界のお客さまでしたら、校正周期、校正ポイント、校正データ、標準機のトレーサビリティまで細かくチェックし、厳しい条件下でないと正常な環境での測定と評価しないケースもあります。

Q. 全てのお客さまが上記のような高品質な校正を求めているのでしょうか?

菊池:お客さまによってさまざまです。校正データ自体も不要、認定ラベルさえ貼ってあればそれで校正完了とし、日々の開発に当たっているお客さまも一定数いらっしゃいます。標準的な検査項目ではなく、「ここの項目だけ検査してほしい」と依頼されるお客さまなど、校正に対しての向き合い方や重要性は非常に多様化しています。もちろん、工数やコストもかかる話ですので、お客さま内の事情や求められる重要度によって変わっているのだと思います。
「校正」というと難しく聞こえてしまいますが、個人で所有する車の車検に例えるとわかりやすいかもしれませんね。きちんとメーカーの点検検査項目に基づき車検を通したい人や、できる限りコストを抑えるために必要最低限の項目だけで車検を通す人とそれぞれです。それは、人それぞれの車検に対するニーズの違いですよね。もちろん個人や企業の違いはあれど、校正においても同じようなニーズがあるのは自然だと思います。

Q. よく校正周期は1年ごとという話を聞きますが、実際に1年間隔がベストなのでしょうか?

鈴木:計測器をある周期で校正をしたからといって、必ずしも安全・安心を保証するものではありません。あくまでその時点で検査をした情報というだけで、極端なことを言いますと、次の1年を待たずに値が狂う可能性もゼロではありません。使用環境、使用測定器、対象となる製品によりベストな校正周期が変わってくると思います。
当然、短いスパンで定期的に校正することがベストではありますが、頻度をあげればそれだけの費用や労力がかかります。製品に応じたベストな校正周期を判断するのは、過去からの検査データを蓄積し、ベテランの技術者が経験の中で周期を判断していくことが必要です。ただ、一部の大企業を除き、校正業務をメインとしている技術者は少ないため、理想と現実のギャップは大きいかもしれません。

計測器を操作する鈴木氏

Q. 「校正周期を短く」は理想ですが、なかなか難しいですよね。品質を維持するコツはありますか?

鈴木:できる限り定期校正に代わり、計測器の微妙な不良を見落とさないよう、日々の点検をすることを推奨しています。例えば、最近の計測器には簡易的なセルフ診断ができるようなチェック機能を有しています。これらは製品の機能チェックに当たるため、正常品か不良箇所があるかを自動でチェックできる機能となっています。仮に毎朝、測定前に実行すれば、知らない間に発生している不良を未然に防げることがあります。
当社で保有する計測器でも、これらの機能を使いながら検査や点検をした上で、規定の周期で校正しています。日々の点検と校正というのは、毎年健康診断を受けて何かあれば精密検査を行うというのと同じような関係性ですね。



菊池:ちなみに当社のレンタル品で言えば、校正を実施して1年経過しますと、必ず「校正切れ」として期日管理をしていますので、お客さまに貸し出し中の状態であってもご案内を差し上げます。その場合、校正を実施している同等品を交換させていただくか、お客さまに貸し出しているレンタル品を稼働していない時期に引き取らせていただき、当社あるいはメーカーにて校正を実施してからお戻しするというサービスを標準的に実施しています。

校正基準機に対象の計測器を接続し校正を実施しているところ
校正基準機に対象の計測器を接続し校正を実施

Q. 計測器の品質面について、校正以外で注意することはありますか?

菊池:現在の計測器は、 Windows が搭載されている製品が多くあります。 Windows が入っていれば実質、画面操作はパソコンと同じになりますし、ネットワークを接続すればインターネット接続も可能となります。
パソコンのように社内でセキュリティー対策をしているわけではありませんので、ウイルスに感染するというリスクはあります。特に、お客さま先で計測データを社内サーバーなどに格納する際や、計測器自体を直接LANに接続したり、管理用のパソコンと直接計測器を繋いだりする際など、ウイルスに感染するリスクはゼロではありません。
当社では、パソコンと同じ位置づけとして見なし、ウイルスチェックを通常の検査で必ず実施しています。具体的にはOSを初期化し、メーカー工場出荷状態のバックアップデータから展開し、上書きを実施しています。手作業であれば非常に時間がかかる作業ですが、当社はパソコンでの検査・初期化における自動化システムがありますので、それらを活用し、作業時間を短縮しながらウイルス対策を行い、安全性を担保しています。

ウイルスチェックツールと計測器で実施している様子
左:ウイルスチェックツール、右:実際に計測器で実施している様子

Q. 校正業者の中で、当社の強みは何でしょうか?

鈴木:品質の高さですね。校正に必要な設備は全て自社で保有し、長年技術的な品質の維持管理に努めています。
自社の社員である校正に精通しているベテランの技術者が、品質を支えています。新しい計測器の校正方法を開発する際にも、ベテランの知恵を生かし、できる限り個々の校正業務が属人化しないよう自動化しています。それらの手順も自分たちで開発をしており、ノウハウを蓄積し、サービスに反映しています。他社においては、校正メニューは設けているが実際は全てを外部委託しているという会社も多くいますので、その点では当社の品質やサービスは安心していただけると思います。

Q. 今後の校正メニューについて、当社の取り組みを教えてください。

菊池:当社は長年品質を重視して、できる限り内製化をしながらノウハウをため、品質を維持してきました。しかし、別の質問でもお話したとおり、常に高い品質で校正を実施することだけがお客さまのニーズを満たすことではなく、検査項目は絞っても良いからコストを下げてほしいというニーズもあります。当社の校正基準はメーカー同等レベルを標準的に実施しているため、今後はコスト重視のプランもメニュー化の検討を進めています。
逆に、17025校正など上位のプランは、当社が得意とする分野となるため、引き続き校正メニューを幅広く用意し、さまざまなお客さまからのご要望にお応えできるよう整備していきたいと考えています。



本日はありがとうございました。

菊池氏と鈴木氏
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