NewsPicks主催イベント
対談レポート シェアリング時代のビジネススタイル。「持つべきもの」と「持たざるもの」【前編】

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シェアリング時代のビジネススタイル。「持つべきもの」と「持たざるもの」【前編】

シェアリングサービスはコンシューマ向けだけにとどまらず、ビジネスユースでも利用が広まっている。オフィスやITインフラ、テクノロジーツールなどを、所有するのではなく利用にシフトする動きが活発だ。そこでNewsPicksでは、「所有から利用」のメリット、「持たざるビジネススタイル」「持たざる経営」の真髄を現場で活躍するビジネスパーソンとともに考えるイベントを開催した。オフィスのあり方、シェアリングサービスに最前線で向き合う登壇者の話をリポートする。

特別対談には、ソニックガーデンの代表取締役社長 倉貫義人氏が登壇。同社は「人月商売」が一般的なシステム開発業において、「納品のない受託開発」を謳い月額定額制のビジネスモデルで頭角を表したスタートアップだ。ビジネスモデルだけでなくユニークなのが「自由な働き方」。

その一つとして、リアルなオフィスを完全に持たず、世界中のどこからでもバーチャルオフィスで働く勤務形態を実現している。スタートアップ事情をよく知る500 Startups Japanのマネージングパートナー 澤山陽平氏とともに、少ないリソースで成果を出すためのスタートアップ流効率経営術を探った。

全員リモートワークで気づいたオフィスの意味

澤山 ソニックガーデンはシステム開発を営むエンジニア集団ですよね。個が集中して仕事する場合もあると思いますが、対面コミュニケーションも必要なケースも多いはず。それなのに、オフィスを完全撤廃し、全員フルリモートで働いているそうですね。

澤山陽平 500 Startups Japanのマネージングパートナー
東京大学大学院工学系研究原子力国際専攻修了。修士(工学) 。JP モルガンの投資銀行部門でTMT セクターの資金調達やM&Aアドバイザリー業務に携わった後、野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(NR&A)にて IT セクターの未上場企業の調査/評価/支援業務に従事。 2015年、約38億円規模のファンドである500 Startups Japanのマネージングパートナーに就任。

倉貫 はい、2016年にオフィスを完全になくしました。社内のメンバーともお客様との打ち合わせもすべてオンライン上で行い、メンバーがどこにいるか、私もみんなも気にしていません(笑)。

倉貫義人 ソニックガーデン 代表取締役社長
1974年京都生まれ。1999年立命館大学大学院を卒業し、TIS(旧 東洋情報システム)に入社。2003年に同社の基盤技術センターの立ち上げに参画。2005年に社内SNS「SKIP」の開発と社内展開、その後オープンソース化を行う。2009年にSKIP事業を専門で行う社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げる。2011年にTIS株式会社からのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを創業。

システム開発の仕事は、エンジニアのパフォーマンスがすべて。基本的に大規模な設備も必要ないですし、テクノロジーによって遠隔地からのコミュニケーションはかなりスムーズになりました。業務に支障がないんです。

当然ですが、オフィスを借りていればお金がかかります。なければ、そのお金をカットできる。

また、私たちのような若くて小さな会社が、普通のシステム開発会社のような働き方を提示していたら、優秀なエンジニアを確保するのは非常に難しい。ですから、採用の武器としても「自由な働き方」は使えると思ったんです。だから、ソニックガーデンの募集要項には「勤務地不問」と記載してあります。

そう考えると、オフィスを持つ意味はなくなりました。現在では半数以上が地方に住んでいて、16都道府県からリモートで働いています。

澤山 かなり振り切った取り組み。すごい効果がありそうな一方で、問題が起きそうな気もします。

倉貫 リモートワークを始めたばかりの頃は、仕事をしていても寂しい気持ちになってしまったんです(笑)。まわりで人が仕事してるとか、何気ない会話をすることって、大事なんだなって感じました。

それに、ほどよい雑音レベルの雑談がオフィスからなくなると、なんか重苦しいというか、社内が殺伐としません?それに雑談ってその人を知るきっかけになるし、同じ会社で働いている一体感も生まれます。オフィスをなくしてフルリモートで働き始めた時、オフィスの存在価値はこの雑談だったんだって強く思いましたね。

そこで、実際のオフィスの代わりにバーチャルオフィスを用意することにしました。そこに毎日みんな出勤して互いの顔を見ながら仕事をして、その仕事の合間に雑談したりして、離れていても心理的に安心できる環境をつくっています。時々、リモート飲み会もしますよ(笑)。

持つべきかの判断軸は生産性を上げるか

澤山 オフィス以外にも持たない、やらないことってありますか?

倉貫 管理しません(笑)。

クリエイティブな仕事は、そもそも指示・命令が難しいものです。だから、管理しないほうが、パフォーマンスが上がるのではと予想していたのですが、まったく管理しない方針にしたら、本当に生産性が上がったんです。

だから、管理職もなくしました。すると経費精算はどうするのか、とか細かい問題が出てきますが、誰でも好きなだけ使える仕組みにしました。

澤山 そんな性善説でいいんですか。

倉貫 情報をオープンにしてみんなが見える状態にしたら不正は起こりません。基本的に勤務時間もそれぞれのメンバーに任せていて、労務管理はログから収集して把握できるように自動化しています。

澤山 評価や給料はどうするんですか。

倉貫 管理職がいないので、評価もしません。だから、出世もしない。ざっくり言えば、給料は一律で賞与は山分け。さすがに働かなくなるかもと心配しましたが、管理しないほうが自主性や責任感が増すし、みんな結構、働きます。管理コストもかからなくて、いいことしかないんです。

人より差を付けたい、めちゃくちゃ働いて稼ぎたいなど、当社のカルチャーに合わない人は当然いるので、採用時にきっちりと話して見極めています。

澤山 無駄な固定費用とマネジメント業務を徹底的に削ってその分、社員の働きがいに繋がる部分に投資する、ということですね。

倉貫 そうです。新卒採用も研修もリモートで行っていますが、最初のうちは月に1度程度、東京で合宿を行うなど濃い時間を過ごすようにしています。社員とその家族が集まるイベントも、年に1度行っています。

澤山 つまり、短期間でも濃いコミュニケーションは必要で、そこに対する投資は惜しまない、と。

倉貫 毎日でなくていい。普段の仕事は、生産性を上げることに集中すればいいと思います。だから生産性が上がる、成果が出るものは持てばいいと思っていて。

例えば、オフィスを無くしたので在宅勤務になりますが、リビングで仕事をすると生産性が上がらないことがあります。そこで東京の自由が丘にマンションを借りていて、近辺に住んでいる社員がコワーキングスペースのように使える場所を用意しているんです。

普通のコワーキングスペースだと、テレビ会議で他人に聞かれるとまずいこともありますよね。地方でも小さい子供に邪魔されないように、自宅の近所に仕事部屋を借りている人もいます。

軸は、生産性が高いかどうか。生産性を上げるために要らないものは全部なくすほうが本質的だし、スタートアップになればなるほど、本質なことだけにフォーカスしたほうがいいと思いますね。それは「持つべきもの」「持たないもの」を判断する指標にもあると思っています。

出典元

NewsPicks EVENT REPORT 「持たざる経営のススメ」

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