業務変革に必要な「DX人材」とは?
経済産業省『デジタルスキル標準』から考える
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- 公開:
- 2025/02/20
デジタルトランスフォーメーション (以下、DX) が求められる時代において、業務変革を支える「DX人材」の重要性はますます高まっています。
しかし、具体的にどのようなスキルや役割が求められるのか、明確にイメージできていない方も多いのではないでしょうか。
そこで注目したいのが、経済産業省が策定した『デジタルスキル標準』です。
本記事では、経済産業省の情報を参照しながら、DXを進める上で求められる人材像や推進に欠かせない5つの人材類型について解説します。
企業の成長を支えるDX人材の要件を理解することで、「今後、社内にはどのような人材が必要なのか?」を一緒に考えてみましょう。

デジタルスキル標準とは?
経済産業省が策定した『デジタルスキル標準』は、一言でいうなら、「DX時代を生きるビジネスパーソンに求められるスキルを示した指針」のことです。
そんな『デジタルスキル標準』は、『DXリテラシー標準』と『DX推進スキル標準』の2種類のスキルによって構成されています。
『DXリテラシー標準』とは、DXに関する基礎的な知識やスキル、マインドを身につけるための指針のこと。
そして『DX推進スキル標準』は、企業がDXの実現に向けた人材を育成・採用するための指針にあたります。
1. 全ビジネスパーソンが身につけたい「DXリテラシー標準」
『 DXリテラシー標準 (DSS-L) 』は、データやデジタル技術を活用して事業や業務を進める上で、経営層を含むすべてのビジネスパーソンが身につけるべき知識や考え方、学びに対する姿勢を定めたものです。
経済産業省による資料では、ビジネスパーソンに求められるマインドや知識を「学習のゴール」として提示。
「DXの重要性を理解していること」や「デジタル技術を業務で活用できること」といったそれぞれのゴールを達成するため、企業・組織や個人が取り組むべきことと、学習項目例が示されています。
ゴール達成に向けたアプローチの方法には、「データの分析手法や読み取り方を理解している (データを読む・説明する)」といったITツールに関する知識はもちろんのこと、「顧客・ユーザーの立場に立ってニーズや課題を発見しようとしている (顧客・ユーザーへの共感)」といった普段の業務に取り組む際の姿勢に関するものも。
DXにおいては、デジタルに限らない複合的なビジネススキルも重要なのです。
2. DXに必要な人材とスキルを示す「DX推進スキル標準」
一方の『 DX推進スキル標準 (DSS-P) 』は、実際に社内でDX推進を担う人材に求められる役割や必要な知識、スキルを明確に示した指針です。
この標準では、DXにおいて特に重要な業務を担うとされる5つの人材類型 (ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウエアエンジニア、サイバーセキュリティー) を定義しています。
人材類型ごとの活躍場面や役割の違いに基づき、2〜4のロールに振り分けられているのも特徴です。
各ロールにて求められるスキルや知識に加え習得重要度を共に定義することで、優先的に備えるべきスキルや知識が具体的に示されています。
このように必要な能力が「見える化」されることで、育成計画の見直しや改善につながるだけでなく、主体的なリスキリングの推進にも寄与します。
日本企業がDXを推進するための人材を十分に確保できていない背景には、自社のDXの方向性を明確に描き切れていないことや、自社にとって必要な人材像を的確に把握することの難しさといった課題があります。
社内でDXを成功させるためには、組織全体でリテラシーを高め、DXへの理解を深めるとともに、DXの旗振り役となる『DX推進スキル標準』を身につけた専門人材を育成・確保することが不可欠です。
こうした人材を社内で育成し、配置することは、業務変革を進める上での重要なステップとなるでしょう。

DX推進スキル標準における5つの人材タイプ
『DX推進スキル標準』で定められている5つの人材類型「ビジネスアーキテクト」「デザイナー」「データサイエンティスト」「ソフトウエアエンジニア」「サイバーセキュリティー」とは、それぞれどういった人材なのでしょうか。
以下では、それぞれの人材タイプについて詳しく紹介します。
1. ビジネス全体を設計する「ビジネスアーキテクト」
ビジネスアーキテクトは、ビジネス目標を明確化し、その達成に向けてDXを推進するため、関係者間の調整と協働をリードする役割を担う人材のこと。
デジタル技術の知識を前提に、ビジネス全体のアーキテクチャを設計し、プロジェクト成功の鍵を握る中心的存在としても活躍します。
また、デジタルを活用したビジネスを構築し、一貫した取り組みを推進してその実現に責任を負うことも、ビジネスアーキテクトの重要な役割です。
このため、単なる技術者や管理者の枠を超え、ビジネスとデジタルを融合させ、新たな価値を創出するリーダーシップが強く求められます。
さらに、この役割には高度な「マネジメント能力」に加え、課題解決に必要な「調査スキル」や「アナリティクス能力」が欠かせません。
加えて、プロセスやシステムの全体像を的確に設計する「モデル設計スキル」も重要です。
これらのスキルを駆使し、組織全体でのDX推進を支えるキーパーソンとしての活躍が期待されています。
2. 顧客目線でサービスの価値を高める「デザイナー」
デザイナーとは、顧客やユーザーの視点からサービスの方針やプロセスを設計し、それに基づいて製品やサービスのあり方を形にする役割を担う人材を指します。
求められる役割は、見落とされがちな顧客やユーザーのニーズをすくい上げ、関係者に対して顧客・ユーザー視点での検討を促し、円滑に進めること。
また、倫理的観点を踏まえた顧客・ユーザーとの接点を設計することも重要な役割です。
DXにおけるデザイナーの役割は幅広く、「サービスデザイン」「UX/UIデザイン」「グラフィックデザイン」など多岐にわたります。
特に、DX推進をこれから始める企業にとって最優先で確保すべきとされるのが「UX/UIデザイナー」。
UX/UIデザインは、顧客やユーザーがデジタルサービスを利用する際の体験を向上させるための設計を行い、使いやすさや満足度を高めるうえで欠かせない存在とされています。
デザイン領域ごとに求められる能力は異なるものの、共通して必要なスキルは次の3つ。
顧客のニーズや課題を深く理解する「顧客理解力」、潜在的な価値や解決策を見つけ出す「価値発見力」、そしてそれを形にする「設計力」です。
ビジネスの競争力を高めるうえで、デザイナーが持つこれらのスキルを生かすことへの期待は非常に大きいと言えるでしょう。
3. データ解析をビジネスに応用する「データサイエンティスト」
データサイエンティストは、業務変革や新規ビジネスの立ち上げに向けて、データ解析の仕組みを設計し、それを実装・運用する人材です。
さらに、データを活用した意思決定や業務プロセスの最適化を支える中核として、組織におけるDX推進を支援します。
求められるのは、単なるデータの運用にとどまらず、分析結果を基に戦略を提案し、新たな価値を創出する仕組みを構築する力です。
これにより、自社の競争力向上に直結する取り組みを推進します。
また、デザイナーやエンジニアといった他の専門人材と柔軟に連携しながら、効果的なデータ活用や潜在ニーズの掘り起こしにも取り組むことが期待されています。
この役割を担うために必要な能力は、膨大なデータを適切に処理・分析する「データ理解力」、「人工知能を活用するスキル」、そしてデータ活用を支える「基盤設計力」などです。
これらを活用し、データを起点とした価値創出を通じて、DX推進の重要な役割を果たします。
4. アイデアを具体的な形にする「ソフトウエアエンジニア」
ソフトウエアエンジニアは、サービスやソフトウエアの設計から運用までを担い、企画や構想を実際のプロダクトやサービスとして具体化する役割を果たす人材のこと。
特にDX推進においては、デジタル技術を活用したアイデアを形にし、ビジネスに価値をもたらす重要な存在です。
多くの場合、ソフトウエアエンジニアは社内のユーザーや各部門と密接に連携しながら、ニーズに応じたソリューションを提供します。
その際、自社の顧客価値をどのように拡大するかを常に意識し、エンジニアリング活動を組織全体の成長へと結びつける視点が求められることが、この人材の特徴です。
必要とされるスキルには、プロダクトを開発するための「システム開発力」、複数のメンバーと効率的に協働する「チーム開発力」、さらに現代の開発環境で欠かせない「クラウド活用力」などが挙げられます。
これらのスキルを生かし、ソフトウエアエンジニアはDX推進の基盤を担う中心的な存在として活躍しています。
5. 全社員が責任を持つべき「サイバーセキュリティー」
サイバーセキュリティーとは、デジタル環境におけるセキュリティーリスクを抑制するための対策を講じる取り組みを指します。
従来はIT部門の専門領域とされてきましたが、DXが進む現代においては、IT部門だけでなく、全社員や各部門がセキュリティー対策に責任を持つことが求められています。
そのため『DX推進スキル標準』では、特定の「人材」の役割として限定するのではなく、組織全体で取り組むべき課題として捉えられています。
サイバーセキュリティーの使命は、企業が徹底したセキュリティー対策を実施しつつも、DXによる価値提供を妨げないようにバランスを取ること。
求められるスキルとしては、企業全体のセキュリティーを管理する「セキュリティー体制構築力」、予期せぬトラブルに迅速に対応する「インシデント対応能力」、そしてシステムやサービスを安全に設計する「設計スキル」が挙げられます。
これらのスキルを駆使し、組織が安全で持続可能なDXを実現できるよう支援することがサイバーセキュリティーの重要な役割です。
必要な知識と技術を分解し、DXに役立てたい
「DX人材」という言葉は一見抽象的に感じられるかもしれませんが、その役割を分解すると、求められるスキルや人材の種類が非常に多岐にわたります。
自社がDXを進める上で、どのような人材が必要かを見極めることは、成功への重要な第一歩。
今回ご紹介した各役割やスキルを参考に、自社にとって必要な人材像を具体化してみてはいかがでしょうか。
これにより、DX推進における人材戦略がより明確になり、効果的かつ効率的な取り組みにきっとつながるはずです。